ソン・ガンホが素晴らしい!広州事件の実話「タクシー運転手 約束は海を越えて」

2017年製作/137分/韓国
監督:チャン・フン 主演:ソン・ガンホ
BLENDA:4.4 Yahoo!映画:4.23 映画.com:4.1
ライター:S・Y

また、いい映画を見つけてしまった。
1980年5月に実際に起こった「光州事件」の実話。恥ずかしながら、名前は知っていたけれどこんなにひどい事件だったなんて知らなかった。軍隊が絶対の韓国で、軍隊が丸腰の国民に銃口を向け、殴る蹴るの酷い事件。目を背けたくなる映像に、正直日本がこんな世の中になったらと恐怖すら覚えた。
そんな痛ましい事件を、前半はソンガンホが明るくコミカルに、後半は人のために命をかける行動に変わっていく。何より、この映画で描かれているタクシー運転手仲間に感動した。映画の中に出てくるエピソードはかなり演出されているとしても、実際にタクシーが集結してバリケードとなったり、怪我人を救護して運んだりしたことは事実らしい。
日本に滞在していたあるドイツ人記者が、同じ記者仲間から広州で何が起きているのかを聞き、取材のために立ち入り禁止になっている広州へと向かう。ソウルから広州までタクシーで行こうと手配した待ち合わせ場所には、本来依頼したタクシー会社の車ではなく、個人タクシーであるソンガンホが報酬金目当てで待ち構え、見事横取り。ただ、詳しい事情も知らず横取りしたその仕事のせいで、命まで危険に晒されるはめに。

広州に入る道のりは軍隊で閉鎖されている。でもそこはソン・ガンホ。報酬の10万ウォンのためにあれやこれやで無事に広州入りを果たします。
広州に入ると、ソウルでは何も報じられていなかった、広州の異様な光景が目に見えてくる。そんな中、ソン・ガンホたちは移動中の学生たちのグループに遭遇する。ソウルからきた外国人の記者だとわかると、よく来てくれた、この広州の惨状を世界に発信してくれと。

ここで出会った、英語が話せる学生、ジェシクが通訳として行動を共にすることになる。

ここでは、タクシーがデモで怪我を負った一般市民たちを病院に運んでおり、ソン・ガンホたちも病院で地元のタクシー仲間たちと出会う。それがとんでもなくいい人たちで、自分も大変なのにみな他人を思いやる優しさが泣けた。

後半にいくにつれて、広州の惨状がどんどん過激になっていき、まるでテロ現場のように、軍人が無差別に無抵抗の一般市民を銃撃する。もうこれ以上の犠牲者を出したくないと、代表して前に出て大きな白旗を降って降参の意思を皆を代表して伝えようとした若者さえも、旗を振りながら無残に銃口に倒れた。

怪我をした人を助けようとした人々をも皆殺し。そこにタクシー運転手たちが列をなしてタクシーで飛び込み、バリケードの役割をしながら、倒れている怪我人たちをタクシーにのせてその場から救い出す。
ソン・ガンホも、広州の人たちからおにぎりをもらったり、車が故障したら自分たちの車で牽引し修理場までつれていき、さらに部品がないとわかると自分の車の部品と交換しようとしてくれたり、車が壊れてソウルに帰れなくなったら自宅に泊めてくれてもてなしてくれて。みんな優しい。そんな一般人が自分の命を危険に晒してでも怪我人の救出に向かうといえば、ソン・ガンホも自分も同じドライバーだ、自分もいく、と。
ずっと一緒だったジェシクが、自分たちの犠牲となってしまう。病院で途方に暮れて座り込んでいたドイツ人記者ピーターに、ソン・ガンホが歩み寄り、ちゃんと撮れ、この惨状を世界に伝えられるのはお前しかいないんだ、と声を掛ける。
広州を抜け出しソウルへと向かうソン・ガンホたちの車を追いかける軍隊の車に向かって、地元のタクシー仲間テスルたちが命をかけて体当たりするシーンは、一番泣いてしまった。いい人が命を奪われてはいけない。みんな丸腰なのに、どうして同じ国の軍人に命を奪われなくてはならないのか。

そんな彼らに守られながら、ソン・ガンホたちはなんとか広州を脱する。広州を離れてしまえば、そこは日常。彼らの身の安全は保証されたが、テスルたちはまだ惨状の真っ只中にいる。その温度差に切なくなった。彼らを守ってくれた彼らは死んでしまって、その家族はこれから苦しみが始まる。それが悲しくて。そしてソン・ガンホとピーターは政府の追随をなんとか逃れ、無事にピーターは日本行きの飛行機にのる。そしてピーターは広州の惨状を世界に伝えることに成功する。
ストーリーはとても重厚なのに、ソン・ガンホの、おじさんスキップや器の小さい発言などが相変わらず笑えたり、でも後半はそんなソン・ガンホがいい表情を見せる。全然かっこいいおじさんじゃないんだけど、韓国のおじさん俳優といったらこの人しか知らない。いい俳優さんだ。久々いい1本でした。
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